らいの報酬を要求なさっても当然なんですね。ボクは幹事長にそれを要求しましょう」
「それは無理というものですわ」
「エエ、もうあの連中にとっては全てのことが無理なんです」
「私はね。ただ私だけでも二等運賃をいただいて、谷さんに見せつけてやりたいのです。そのミセシメが必要だと思うんですよ。その程度の誇りを持つべきであるということを」
「むろんですとも。では応接間で待ってて下さい。幹事長をつれて来ますから」
ありがたいことになったと信二は大いによろこんだ。もろもろの関係のうち、金銭関係ほど密接無二のものはない。人間が裸体である時よりももっと裸の関係だ。この関係にある時こそ人の心と心が最もふれ合う時なのである。借金をとられる奴ととる奴とが熱烈な恋におちるのが人生の自然というものであるのに、人生は皮肉だ。貧乏人にも高利貸にも美人がいないから、不幸にして偉大な恋愛が生れない。それにつけても小森ヤツ子の颯爽たる武者ぶりよ。けなげなる色気よ。あふれるような情感だ。これを一口たべなければ男というものではない。
信二は五助を人気はなれたところへ呼んで、
「実はこれこれで、小森ヤツ子が二等運賃を請求して
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