くぞくと信二の身にしみ、彼は恍惚となって武者ぶるいをしたのである。
「実に正当な御意見ですね。むろん二等、むしろ特別二等、もしくは一等車ですよ。さっそく幹事長に伝えて、御満足のいくように取りはからうつもりですが、なにせ百姓連中でしょう。バスの代りには歩くんです。汽車の代りには自転車でしょう。自分がそうですから、汽車の三等だってゼイタクだという考えなんです。汽車の屋根に四等席をつくってやっても、むしろ汽車の下に五等席をつくれと云うにきまっています。そのくせ五等席にも乗りたがらずに、足で間に合わせるのがなお利口だという考えなんです。この連中を説き伏せるのは、竿で星を落すぐらいメンドーかも知れませんが、あなたのためにこの連中と闘うことは、むしろボクのよろこびですね。ボクはとてもうれしいのです」
「うれしいッてことじゃアないと思いますけどね。商用ですからね。純粋な取引でしょう」
「ですから、うれしい。商用のお役に立つことが、とてもうれしいのです。人生は商用につきますから」
「ハア、そうですか」
「特にアナタは女性ですし、あの満員の聴衆を集めたのも主としてアナタの力ですから、他の六名を合わせたぐ
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