うも皆さん御苦労さまです。御夕食でも差上げたいのですが、バスがなくなりますのでね。ごらんのようにテンヤワンヤで、売上げがどうなったやら、会計も行方不明で、今日は精算ができませんので、とりあえず、帰りのバスと汽車賃、バス代二十五円の汽車賃二百七十円、六人分で千七百七十円也。どうぞお納め下さい。謝礼はさっそく精算の上お送りいたします。オヤ、もう最終のバスの時間だ。これに乗りおくれると、大変。急ぎましょう」
「お茶がのみたいね」
「とんでもない。東京とちがいまして、このバスに乗りおくれると狐に化かされてしまいますよ」
「ヤツ子さんは?」
「一足先に帰京されたのかも知れませんね。なんしろテンヤワンヤでして。モシモシ皆さん。本日の主賓、われらの芸術家を先にバスにお乗せ下さい」
五助は人々を拝み倒して六人を先頭にのせてくれた。約束の日当一人千円、それに往路の足代千七百七十円、まさか払わないとは思わないから、一行はせきたてられ泡をくらッてバスにのりこんだ。バスにのって、さてつらつら考えるに、チョッキリ帰りの足代を貰っただけでは夕食のサンドイッチにありつくこともおぼつかないのがようやく分った始末であ
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