書かずにゐられなくなるのである。多少とも深まつてゐるだらうといふことが、私には言へない。要するに漂ふ気流のやうなもので、深まるべき性質のものではないのかも知れない。
私はこゝ数年、かういふ心の影にふれない生活を送り、関心事は肉体の問題に限られてゐた。今も多分にさうであり、今後もさうであらうと思ふが、さうして私の心の影とこの肉体の問題とは今のところ聯絡のない二つのものに見えてゐて、一つを育てるためには一つを棄てる必要があるやうにさへ見えてゐるが、然し私の心の中ではこの二つが充分のつながりを持つてゐるのだ。それを別々にしか表せないのは私の文学が未熟のせゐで、そのほかの理由は全くない。
一つには、私は今まで綜合的な、組織的な手法ばかりを学んでゐたが、考へてみると、私の心の動きは必然的に分裂へ分裂へと向き、要するに私にとつては、分裂が結局綜合を意味するのだといふやうなことが分りかけてきた。このことは必然的に文学の形式に及ぶわけで、いや、むしろ形式の方が心の動きを左右してくるわけで、第一義的な重大なものであらうと思ふが、さうして私は根本的に出直す必要を痛感してゐるが、まだまとまつた成算はなに
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