で試合する。ところが昔のままの剣法だから全く実戦向きの剣法なのである。遊び半分の百姓剣法だろうなぞと講談本にでてくる生意気な武者修業者のようなことを考えると大マチガイで、真剣勝負に徹した怖るべき剣法である。今日の竹刀向きの剣術のように丁々ハッシと竹刀でぶんなぐりッこするような技法がない。
「無構え」という妙なヘッピリ腰で三四間離れて立ち、ジリジリと寄ったり離れたりマをはかって、とたんに「ヤットオ」と斬りこむ。攻撃はその一手。
 受け手の方は体をひらいて斬り返すか、退いてかわして斬るか、もしくは進んでツバ元で受けて巻き落して斬り返すか、いずれかで、攻めても受けても、どっちにしても一撃できめようという剣法だ。
「無構え」というヘッピリ腰が面白い。しかしよくよく見ると恐しい構えである。百メートル走者の疾走中の瞬間写真のような体形が基本になっている。空中を走る姿を地上に置いたのが無構えで、したがって、いきなり飛びだすに一番都合のよい体形だ。竹刀は横にかまえてブラブラと足とともにハズミをつけているが、力は常に足にある、斬りこむ速力の剣法である。完全に実戦から生れて育ったままの剣法で、お体裁という
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