ふことがない。満足することがない。たのしむことがない。大先生がこれぞ最上の妙味と称して珍重するものは、退屈しないといふことなんだな。君はさつき大先生にセップンしたが、セップンも一つの方法としてはよろしいが、セップンそれ自体がエロサービスだといふ観念は浅薄通俗、大先生の学説以前のものだ。大先生はエロサービスも好きだけれども、一人でねころんだり、旅行に行つたりするのも好きだ。さういふ時には一人といふものゝなかにも、なつかしいエロサービスがあるのだね。ほんとのエロサービスとはさういふもので、存在自体をむやみにひけらかすよりも、邪魔にならないといふこと、更に極上のものは退屈させないといふことだ。分りましたか」
「先生」
手をひろげて、ふわりと顔がちかづいた。
「ホテルへ泊りにつれて行つて。先生。私、先生、好きなのよ」
マリマリ嬢はタイタイ先生の顎のあたりへ頭を押しつけて髪の毛をごしごしこすつた。
まつたくもつて大先生は醜態そのものであつた。諾否いづれを答ふべきか、長時間にわたつて全然返答のいと口もつかめないのだ。大先生の学説は言下にミヂンにフンサイされてゐるのである。あさましい限りであつ
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