払ひが好き。なぜなら酔つ払ひは怖くないもの。酔はない男はとても怖いわ」
「あら、あなたはそんなことを云つて、いつといゝ人をごまかしてゐるのね。ずるいわ。それもタイタイ先生の流儀?」
「まア、お待ちなさい。順に述べて行くのですから」
三十才のマダムよりは十九のマリマリ嬢がどうしてもウハ手なのである。つまりマダムは古風だ。世間の女の誰しもがこんな時にはこんな風に言ふといふ言葉しか言へない。マリマリ嬢は自分の流儀で喋りまくつてゐるだけの相違なのである。
「三人のオヂサンのほかに、もう一人チップを下さるお客様は、これがどうも、来てくれないかな、説明ができないのですもの。タイタイ先生に見ていたゞきたいわ」
「それなんだね。君がこれから余は恋をするであらうと言つてパパママに宣言したといふ対象は?」
「えゝ。でもその方一人ぢやないのよ。私、恋をするとき一人だけぢやイヤなんですもの。三四人、一緒にやりだすつもりなのよ。一人ぢや物足りないでせう。でもまだ今のところ、その方と、そのほかに一人。二人だけでせう。あと二三人手頃なのが揃つてから、やりだすのよ」
「大いによろしい。双手《もろて》をあげて賛成だな
前へ
次へ
全23ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング