のよ。始めはきまりが悪かつたけど、だつて、さうですもの、こつちで何もあげないのに、あら、ほんとよ、セップンぐらゐさせてあげないといけないのかと思つちやつて、マッカになつちやつたんですもの」
「あらまア、あのときは、それでマッカになつたのね」
「えゝ、まア、そんなものなのよ」
 タイタイ先生は心中おだやかでない。思はず先生自らがマッカになりかけるのをゴマかすためにカストリをガブリとのみすぎて、むせてしまつた。
 女といふ怪物は気を許すと小娘でもしてやられる。愛弟子などゝ甘く見てゐると、根本的に素性が違ふから、やにわにノサれてしまふのである。どつちが弟子だか分らない。
 先生も手違ひに気がついたから、もう愛弟子などゝいふ甘つたれた見方はやめて、可愛いゝ女、と見ることにした。
「そのお客は若い人かい」
「四人ゐるのよ、私にチップをおいてく人はね。一人は、おぢいさん。一人は、やつぱり、おぢいさんだ。次の一人は、帽子屋だけど、これもおぢいさんね。みんな先生ぐらゐの年配ね。あら、先生、ごめんなさい。おぢいさんぢやなくつて、オヂサンだ。だけど、私は若い人よりオヂサンたちが好きなんですもの。それに酔つ
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