の冷水はおよしなさい。今更家名に傷をつけたり、財産を失ひでもすれば、波子たちが可哀さうではありませんか、と、大概最後にいつぺんは、母がかういふ。それをきくと、波子は、必ず、腹が立つた、私のことなら、余計なお世話よ、と、波子は肚に呟くのである。
死花を咲かせるとは、どういふことだらう。母に訊いてみる。投機に手を出すことだ、と母は言ふ。又、代議士になりたいのだ、と言ふこともある。ボロ鉱山を買ふ気なのだ、と言ふこともあつた。要するに、母にも、異体《えたい》が知れないのである。
伝蔵は、仕事盛りの年頃には小胆で、これといふ大きなことはしなかつたから、大きな失敗もなかつたが、時々、投機や政治や事業に小さくチビ/\と手を出して、合せてみると、相当大きく先祖代々の財産をすりへらした。女遊びもし、さういふことでも、大概、手切金をまきあげられて、先祖代々の財産をへらした。
長男を北アルプスの遭難で失つたのが、七年前で、そのとき、彼の生活が、一応、ガラリと変つたのである。
投機も、やめてしまつた。政治も、やめた。女遊びも、やめたのである。酒さへ量が少くなつて、めつきり、老けてしまつたのである。
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