くにたえぬ悪罵を、私がそれに耳を傾けるフリをすれば恐らく半日は喋りまくるかも知れない。そのくせ、彼女自身はヒダの名折れになるような下らぬ細工物や彫り物を売りつけようとするのであった。ゲテ物屋でも、他店の悪口を言いたてて倦むことを知らぬ店があった。そういう店に限ってくだらぬイミテーションを売りつけたがるのである。
タクミの名作の口数の全くないのには似ざること甚大であるが、これもタクミの気質の一ツではあろうと私は思った。タクミの中にもヘタなタクミがタクサンいるし、名人の数にくらべてヘタなタクミの数が多いのも当り前の話であろう。ヘタなタクミの気質の一ツとして、やたらに他人の作品にケチをつけたがる気質があるのはフシギではない。ヒダのタクミが名人だけだと思うのは大マチガイであるし、その伝統をつぐ細工物や彫り物などの高山名物が今も芸術的であるかというと、決してそうではない。タクミの名作が名もないところに現存するということと、現在のミヤゲ物の芸術性とは、もはや関係がないようである。
しかし、この国だけが一風変ってガンコな歴史を残している。庶流の大和朝廷をうけいれずにかなりの期間ただヒダ一国のみが
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