その投書の主こそ真犯人だ。そしてそれは花井訓導に相違ないと人見は考えた。少くとも、投書の主が花井と判明すれば、それは彼が犯人の証拠だ。事件発生以来の花井の怪しい素振りは、これによって全て氷解するのではないか。
 彼は新聞社を訪れて投書を一見しようと考えた。そして早朝のバスで五時間もかかる県都に向って出発した。
 そのバスの中では、乗客の全てが彼の容疑の噂をしているように思われて、彼は不安と羞恥に苦しんだ。
 そのうちに、ふと意外な会話が耳について、彼は思わず首をのばした。乗客の一人が隣席の連れに話しかけているのだ。
「花井という小学校の先生はサヨの情夫の一人さ」
 隣席の男が何と答えたかは聞えなかったし、それからの男の言葉も聞きとれなかった。やっぱりそうかと人見は思った。これで殺人の動機も解けた。
 新聞社を訪れ、毛里記者に会って、投書を見せてくれと頼むと、毛里は拒絶した。
「もっとも、あなたが手記を書いてくれれば、お見せしますがね」
「なんの手記です」
「つまり、それ、アンタのアレをやったときの手記さね」
 毛里はのけぞるようにしてカラカラと笑った。人見はとびかかって首をしめて
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