。
その投書の主こそ真犯人だ。そしてそれは花井訓導に相違ないと人見は考えた。少くとも、投書の主が花井と判明すれば、それは彼が犯人の証拠だ。事件発生以来の花井の怪しい素振りは、これによって全て氷解するのではないか。
彼は新聞社を訪れて投書を一見しようと考えた。そして早朝のバスで五時間もかかる県都に向って出発した。
そのバスの中では、乗客の全てが彼の容疑の噂をしているように思われて、彼は不安と羞恥に苦しんだ。
そのうちに、ふと意外な会話が耳について、彼は思わず首をのばした。乗客の一人が隣席の連れに話しかけているのだ。
「花井という小学校の先生はサヨの情夫の一人さ」
隣席の男が何と答えたかは聞えなかったし、それからの男の言葉も聞きとれなかった。やっぱりそうかと人見は思った。これで殺人の動機も解けた。
新聞社を訪れ、毛里記者に会って、投書を見せてくれと頼むと、毛里は拒絶した。
「もっとも、あなたが手記を書いてくれれば、お見せしますがね」
「なんの手記です」
「つまり、それ、アンタのアレをやったときの手記さね」
毛里はのけぞるようにしてカラカラと笑った。人見はとびかかって首をしめて
前へ
次へ
全27ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング