やりたい衝動にかられたが、握り拳をふるわせてジッとこらえた。そして、冷静に云った。
「よろしい。投書を見せて下されば、私はその場に犯人の名を教えてあげる」
 毛里の目の色が一変した。彼はジッと人見を見つめていたが、黙って立って部屋をでると、一通の封書を持って戻ってきた。
 投書の文字はわざと小学生のように稚拙であった。そして、目撃者としてあげられているのは、当日の夕刻部落の路上で彼を見たという者も、現場に於て彼の怪しい行動を見たという者も、みんな少年であった。そこで彼は確信をもって断言した。
「この投書の主は花井訓導。あげられている証人が全部子供たちなのは、彼が子供に接する職業のせいです。そして、殺人犯人はこの花井です」
「なぜ?」
 そこで人見は彼が事件の二三週間前に学校で花井と交した会話や、事件発生後の花井の奇怪な素振りをくわしく説明した。しかし毛里は聞き終ると、黙考の後ニヤリと笑い、首を振りながら、言った。
「それだけでは花井が犯人の証拠にはならないよ。その程度のことに比べれば、アンタとトランプの関係の方が抜きさしならぬ犯人の証拠さ」
「花井がサヨの情夫だったという証拠があります
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