ている」
「それはまちがっている。自分がしたのは着物をもってきて屍体にかぶせたことだ。そのとき着物の間から何か落ちたから、手にとってみるとトランプのハートのクインであった。自分はそれを片隅へ投げすてた。それを誤解したのであろう」
「それを捜査本部へ通告したか」
「通告しない」
「なぜか」
「重要なことではないと思った」
「勝手に屍体に着物をかぶせたり、落ちたトランプを投げすてたりして、現場の様子を変えたことが重要だと思わないのか」
(無言)
 新聞記事の一問一答はこれで終っていた。このあとに附言して、当局はこれについて追求するものと思われる、とあった。決定的な容疑者扱いであった。
 毛里記者が一問一答しているときは、こうではなく、村ではこんなことを言ってる者があるが、まさかあなたが犯人だなぞとは誰も思ってやしません、まア笑談《じょうだん》のつもりで御返事下さい、というような打ち解けた素振りであった。
 人見ははかられたと思った。ワナに落ちた狐のように顛倒した。逃れる道がないように思った。

          ★

 ただちに逮捕拘引されるかと思ったのに、まる三日間は全然音沙汰がなかっ
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