させられ、おいしい弁当が与えられたりした。しかし仁吉は一人ぽっちになると、かえって涙ぐんで、こんな唄をうたった。

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山が赤くなりまた雨がふるのか
哀れよ、オレはひとりもの
赤い山の風がオレよ
雨よ
山の風の中を走るなよ
風は泣いてる
ひとりもの

風よ 風よ どこへ行くのよ
東の山に突き当り
西の山にすりむかれ
西も東もくらくなり
風よ
何も見えないよ
ああどこへ行くのよ
[#ここで字下げ終わり]

 学校は欠席がちだが、仁吉は読み書きが達者であった。彼が涙ぐんで唄ったのは、自作の詩であった。それが新聞にのっていた。
 人見はそれを読んでいたく感動した。花井は去年の六年の受持であったから、仁吉に教えたわけだ。彼は花井に会って、仁吉という少年の生い立ちや性質を訊きたいと思った。世間が取沙汰しているのは、仁吉の表面的なものにすぎないと思ったからだ。
 けれども、彼は思いだした。この事件以来、花井は彼に対して妙によそよそしかった。路上で行き会ったときには、曲りようもない田舎道だというのに、細いアゼ道へムリに曲りこんだこともあった。
 まさか彼が犯人ではあるまいが、あの
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