ったのだ。
 その日の新聞では、発見者の仁吉という少年が再び取調べをうけた記事がでていた。
 仁吉は浮浪性と盗癖があった。また平気でウソをついた。中学一年の筈であったが、小学校を卒《お》えてからは通学を中止していた。小学校の六年間も半分は欠席しており、欠席中は家に居らずに野宿して放浪し、盗み食いをしたり、乞食をしているらしかった。家には酒乱で怠け者で貧農の父がいて、むやみに仁吉に当りちらかした。母は死んで、父と仁吉の二人暮しであったが、仁吉は家に居ても叱られるばかりで、食事も満足に与えられなかった。
 仁吉はその晩サヨの小屋の附近に野宿した。翌朝、サヨの小屋の戸があいているので、食べ物をさがしに侵入して、サヨの屍体を発見したのであった。
 仁吉が再度の取調べをうけたのは、今となっては彼の証言が唯一の頼みであったからだ。放浪性と、盗癖と、嘘言癖のある仁吉のことだから、深い理由もなく、ただ警察をきらって、知らぬ存ぜぬで通していることが考えられる。話し声や人の姿を聞いたり見たりしていないかと必死のカマがかけられた。ムダであった。
 仁吉は鄭重《ていちょう》に扱われ、取調べの中間には一室で安息
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