ウソをつくと許さんぞ」
「オレのだ。オレがいつもフトコロへ入れていたものだ」
「お前の云うことが本当だという証拠があるか」
(無言)
「お前がいつもそれをフトコロに入れていたことを見て知ってる者がいるか」
「誰にも見られないように用心して隠していたから、誰にも見られたことがない」
「なぜ見られないように隠したのか」
「オレの大事なお守りだから誰にも見せたくなかったのだ」
「どうして大事なお守りなのか」
(無言)
「誰にもらったのか」
(無言)
「いつから持っているのか」
(無言)
「お前がみんな正直に言ってくれれば、おいしい弁当を食べさせてやる。たとえ人の物を盗んだのでも、正直に云えば許してやるし、弁当もまちがいなく食べさせてやるぞ。どうして大事なお守りなのか、それをみんな教えておくれ」
「オレはトランプがほしくてたまらなかった。町の本屋の店にちょうど人が居ないときトランプの箱が目についたから盗んだ。一箱ごと持ってると人にさとられるから、一番好きな札を一枚のこして、あとは川の中へすてた」
「なぜハートのクインが好きか」
「なぜだか知らないが、一番好きだった。そしてオレのお守りにした」

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