「肌身はなさず持っていたか」
「肌身はなさず持っていた」
「これを失くしたのはいつか」
「なくしたのではない。サヨが死ぬ前に抱かしてくれと云ったから、貸して抱かせてやったのだ。サヨは抱いてポロポロ泣いた」
「サヨが死ぬのを知っていたのか」
「オレが殺したのだ」
「なぜ殺したか」
(無言)
「お前はウソをついているのだろう」
「ウソをついているのではない。サヨを殺したから、オレを殺してくれ。オレは死にたい」
「お前は弁当が食べたいのだろう」
★
約二時間後、仁吉が弁当を食べ終り、休息したのちの一問一答である。
「さっきサヨを殺したと云ったが、あれはウソだろう」
「本当だ」
「お前はサヨと口をきいたことがあるのか」
「サヨはオレに親切だった」
「なぜ親切だったのか」
「オレがサヨの小屋へ食べ物を盗みに行ったら、サヨに見つけられて、逃げるところを後から突きとばされて押えつけられた。なぜ泥棒にきたかと訊いたから、泥棒しないと御飯が食べられないからだとワケを話した。するとサヨはポロポロ泣いて、すまなかった、すまなかった、と言ってオレを抱いた。その日からサヨはオレに親切だ
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