までもない。しかし警部は彼の望むほど強硬ではなかった。
 人見はさめざめと泣いた。そして言った。
「僕は混乱しています。疲れています。どうか三日間休息させて下さい。どうしていいか分らないのです。僕の言葉を考えさせて下さい。何を答えていいか分らないのです。その答を探すことができないのです。混乱しているのです。僕は休息が欲しい。さもないと、死にそうです」
「よろしい。混乱がしずまるまで休息をなさるがよい。あなたの部屋に看護人をつけておきますから、安心して眠りなさい」
「うちに看護婦もおりますから」
「ですが看護人の方が用心にもよろしいでしょう」
 看護人とは刑事であることが呑みこめてきたので、人見は逆らわなかった。
 彼が去る前に、警部は例のトランプを取りだして、
「ちょッとこのトランプのことですが、これはお宅のですか」
「いいえ。僕のところにトランプはなかったと思います」
 人見が去ると、毛里が目を怒らせた。
「奴が自殺でもすると、あんたの責任ですぜ。うんと叩いてやるから」
 警部はそれに答えなかった。
 まもなくフシギなことが起った。トランプがいつの間にやら紛失してしまったのである。犯
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