ガックリ前にくずれた。そして、いつもは彼の患者が腰かけている椅子から滑り落ちて、卒倒してしまった。
 それを冷やかに見つめていた毛里は、舌打ちして立ち上った。そして云い捨てた。
「此奴が犯人さ」
 花井はもっと確信があるらしかった。そして彼は云った。
「僕はサヨが全裸で殺されていたと聞いたときから、犯人はこの人だと見ぬいていました。この男は、女の全裸をたのしむ狂人なんです。この上もない好色漢です。ごらんなさい。この診察室こそ、彼が秘密をたのしむ城だったのです。彼はここで多くの女を全裸にさせて快楽をむさぼっていました」
 平戸先生は美しい顔をあからめて、そッとそむけた。なぜなら、彼女もこの部屋で全裸になったことがあるからであった。もっともそれは全裸になって医師に示さざるを得ない余儀ない病気のせいであった。人見に強いられてのことではない。
 平戸先生は次第に蒼ざめた。ぞくぞく寒気がした。居たたまらない気持になった。
 平戸先生がいそいでイトマをつげて去ると、花井が追ってきた。
「僕、お宅までお送りします」
「いいえ。おかまい下さらないで」
 彼女は走った。花井も走った。彼女は次第に真剣に、
前へ 次へ
全27ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング