帆影
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)空洞《うつろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)実際|詐《いつわ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+星」、第4水準2−82−9]
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 凡そ退屈なるものの正体を見極めてやらうと、そんな大それた魂胆で、私はこの部屋に閉ぢ籠つたわけではないのです。それとは全く反対に、凡そ憂鬱なるものを忘却の淵へ沈め落してしまほふと、それは確かに希望と幸福に燃えて此の旅に発足したのでした。それも所詮単なる決心ではありますが――とにかく其の心掛けは有つたのです。勿論初めのうちは、時々は散歩に出掛ける心持にもなつたものですが、その気持でさて立ち上つてみますに、何か一つ心に満ち足りない感じがして、つひうかうか[#「うかうか」に傍点]と窓から外ばかり眺めてゐるうちに、ガッカリして寝倒れてしまひ、もう天井にヂッと空洞《うつろ》な眼を向けて、放心してしまふのです。そんな風にしてゐて、決して愉快であ
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