うらぶれたエトランヂェであるやうに考へられてならないからです。たとへば私が、初めて彼等の集団へ顔を突き出した場合の気まづい雰囲気を考へたなら、私といふみぢめなエトランヂェが、なんと気の毒に消えさうでありますことか。勿論、素朴な村人たちが、さうまであくどく[#「あくどく」に傍点]私を白眼視するだらうとは思はれないことですが、私としてはそんな場合、常にかういふ気まづい雰囲気を自分一人で創作して、その当座それを押し切つても無理に親しもうとする勇気は持てないのです。よしんば現実の安逸さが古沼程も退屈極りないものであるとしても、予想されたより豊富な安逸さを求めて、この「現実」を賭ける気持にはまづ滅多には成らないのです。これは甚だ余談ですが、ですから私は、「死」ぬことが嫌ひであります。たとへば「死」に、虹ほども豊富な色彩と休息が予約されるとしてからが、現実「生きてゐる」うへは、この現実の安逸を賭けて投機を試みる心になりませんのです。――そして、ありていに恥を言へば、この海風の通る部屋の中では、私は一人ぼつちの真昼を迎へると、部屋の片隅に抹殺し去られた私の海水着を秘かに取り出して、臆面もなく之を着込
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