、それまではあの一部屋に限定されてゐた退屈を、深々とした蒼空の下へ野放しにしただけのことだつたのです。とはいへ私は、いつたん浜に出てみると、恰もそれだけの現実しか見知らない男のやうに、それからの毎日は、日もすがら窓下の浜辺に落ちて、青々とした海を眺める一つの点と化したのです。そして黄昏が来ると、促されて緋奈子と二人、倉皇と暮れてゆく渚を長く彷徨ふのですが、私達の影法師だけは、西に向く時は背に、東に向く時は前に、長々とした寛大な心を静かに並べてゐるのですが……。



底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
   1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「今日の詩 第九冊」金星堂
   1931(昭和6)年8月1日発行
初出:「今日の詩 第九冊」金星堂
   1931(昭和6)年8月1日発行
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2010年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング