た。その顔全体がシワだらけで、安物の赤いノリでつつんだお握りのようであった。木ノ葉天狗もお握りも先祖代々この山中の住人だそうだ。
三人の考古学者はあとで噴きだして、語り合った。
「この旅館は全然原始人の経営ですね」
「それにしては、自家発電もあるし、ワカシ湯もあるし、進取の気象に富んでるじゃないか」
「それでいて、滝にうたせようッて気持が分らないわね」
「そこが本能のアサマシサですよ。自家発電のかたわら、石器も用いているかも知れないねえ」
こうして、黒滝温泉の生活がはじまったのだが、それはもう、いきなり別世界へ叩きこまれたように異様なものであった。
ややロマンチックに
まっさきに一風呂あびてきた一夫は上気して、やや夢みるような面持で戻ってきた。彼はいま経験したばかりのことを思いだすのに骨が折れそうな風に物語るのである。
「お風呂に娘と少年がいたんですよ。ボクもね、チャーチル会をマネたわけじゃないけど、会員組織で油絵だのヌード写真だのやってるから女の裸体は見つけてるんですよ。だけどね、ボクという若い男性の前で、まるで着物を着てる時と変りのない当り前の様子で、全裸の姿を
前へ
次へ
全30ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング