り、そのまんなかを国道が丘を切りひらいて通っている。丘の上の住宅は燃えており、麦畑のふちの銭湯と工場と寺院と何かが燃えており、その各々の火の色が白、赤、橙《だいだい》、青、濃淡とりどりみんな違っているのである。にわかに風が吹きだしてごうごうと空気が鳴り、霧のようなこまかい水滴が一面にふりかかってきた。
 群集は尚|蜿蜒《えんえん》と国道を流れていた。麦畑に休んでいるのは数百人で、蜿蜒たる国道の群集にくらべれば物の数ではないのであった。麦畑のつづきに雑木林の丘があった。その丘の林の中には殆ど人がいなかった。二人は木立の下へ蒲団をしいてねころんだ。丘の下の畑のふちに一軒の農家が燃えており、水をかけている数人の人の姿が見える。その裏手に井戸があって一人の男がポンプをガチャガチャやり水を飲んでいるのである。それを目がけて畑の四方から忽《たちま》ち二十人ぐらいの老幼男女が駆け集ってきた。彼等はポンプをガチャガチャやり、代る代る水を飲んでいるのである。それから燃え落ちようとする家の火に手をかざして、ぐるりと並んで煖《だん》をとり、崩れ落ちる火のかたまりに飛びのいたり、煙に顔をそむけたり、話をしたり
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