りあの爺さんのゆすりはあなたの記事ができた日にはじまった新商売にすぎなかったわけだ。ほとぼりのさめかけたころ本格的にゆすりはじめて退散したわけですが、彼が奥さんに二百万円とひきかえた品はラウオーモンやカラ証文ともちょッとちがって、羅生門、たぶん羅生門の鬼女の面ではないのですかね」
 辻が二の句のつげないうちに小僧がさけんだ。「そうですよ、それですよ。ちょうど面ぐらいの品物でした」
 辻はやや納得できぬ顔で、
「それで多くのことが明かとなりましたが、奥さんが作り声をしたことや能面を持ち帰ったわけは?」
「それにはいろいろな説明がありうると思いますが、探偵小説などを読みますと、特に西洋におきましては、女が悪者にゆすられている場合、絶対にノーコメントで押し通すことができて、またその秘密を知って女を護衛する立派な男なぞが逆にそこをつかれて女と一しょにいたためにアリバイを立証できなくなる例が多いのですね。そこを逆用してノーコメントの手をあみだすつもりだったかも知れませんよ。ちょッとした手だと思いますよ」
「なるほどねえ。新聞もゆすりの件で彼女のノーコメントに一目おいてる傾向がありましたね」
「そ
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