かった。死体の部屋にあった能面のことを知りませんでした。あなたもその能面についてきいたでしょうが、興味本位のきき方で、事件と深く関係を結ばせて取材しなかったんじゃないですかね」
「そうですね。そういう訊き方はしなかったようです。被害者が鬼女の面をアンマにかぶせて、もませていたという傍系的な興味を一ツつけ加えるのが楽しみのための取材でしたね」
「そうですよ。ところがあの日の記事を読むとそうではない。一ツ見落してはならぬことが書いてあります。あの日もオツネは鬼女の面をつけてもんだ。もみ終えて面を卓上へおいてドアの鍵をかけずに退出したと書かれている。もしこの能面が邸内のどこかに焼けもせずに在ったとすれば、その所持する人や所持しうる人が犯人であることは明かではありませんか。朝起きは三文の得とはこれですな。庭番の爺さんは誰よりも先にこれを読んだ。そして毎日邸内や庭園内を掃除にまわっていますから、室内や園内のどこに何があるかは誰よりもよく承知です。どこかでそれを見ていたとすれば、そしてそれをまだ人々が新聞をよまぬさきに手に入れたとすれば、これはゆすりの材料になりますよ。二百万円は安いぐらいだ。つま
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