れなんですよ。次に面の件ですが奥さんは鬼女の面をかぶり顔を隠してやったんじゃないですかね。そしてドアの鍵をかけたり、火をつけたり、またドアの鍵をかけたりして夢中に逃げて、鬼女の面を自分の部屋までつけたまま持ち帰ったのかも知れません。だから爺さんが何かとひきかえに二百万せしめたあの記事が新聞紙上にでなければ、ひょッとするとその能面に再会できたかも知れませんが、もうその見込みはないでしょう。要するにあらゆる物的証拠が失われているわけです」
 辻はここまで聞いて益※[#二の字点、1−2−22]ガッカリしてしまった。これを記事にしても物的証拠がなければ金的を射とめることができない。すべてが九太夫の単なる推理にすぎないのである。実にどうも残念だ。彼は腕をこまねいて考えに沈んでいたが、
「しかし、これを記事にしないわけにはいきませんよ。爺さんに白状させても記事にしてみせますよ」九太夫は静かに制した。
「天下の大新聞がカラ振りはつつしんだ方がいいようですよ。あの爺さんは白状することがありますまい。しかしいまに天罰が自然に犯人の頭上に訪れると思いますよ。なぜならですね。奥さんにはもう残った金がありませ
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