でもいいように、これを蛇頭にして蛇尾と云うのかも知れないがオツネサンにとっては龍の胴だけあれば思考が満足してるんだね。そこがお前さんのヒガミの少い気立てのよいところだがね」
「私ゃはずかしくなりましたよ」
「まアさ。そこがオツネサンの値打だね。人にだます気持があれば必ずだまされるお人好しなんだから」九太夫はこうオツネを慰めたが、さて辻に向って、
「さて今晩はこの静かな旅館で考えてみようじゃありませんか。こういうことがなぜ行われたか。あなたのお部屋は小田原の河上さんの部屋に用意ができておりますよ」
*
新聞記者だから辻は結論をせっかちにだす。目がさめると大体見当がついている。
最も時間のかかったのが外国語の咒文の件であるが、オツネの錯覚と同じようにこれも小僧に錯覚ありと見るべきだ。結論がでるとせっかちだ。すぐにも報道にかからずにいられないのが持ち前の性分で、九太夫の起きだすのを待ちかまえ、さっそくその前に大アグラで坐りこんで、「この事件は爺さんが奥さんの依頼でやった殺人ですね」
「なるほど」
「奥さんは後日に至って爺さんにゆすられることを察していたから天性のお喋り
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