で秘密の保てないオツネにわざとそれを聞かしておいたんだと思いますよ。爺さんのアリバイは十二時までですから奥さんの作り声の件が解決すればアリバイはないわけです。火事は一時四十何分かに発見されているんですからね。つまり奥さんの作り声は容疑者のアリバイをみだす役目も果していたのです」
「その着眼は面白いですね」
「そこで爺さんは大役を果してしかもカバンの百万円には手をつけないような殊勝なことも果しました。その百万円をトリック代として二百万円は当然でしょう。ところが奴め稚気があるから、わざと窓の外から戸をたたいてラウオームオー、つまりカラ証文とイヤガラセを云ったんじゃないですか」
「カラ証文。いいところを見てますね」
「カラ証文の受取りとひきかえに苦りきった奥さんが二百万円渡した。これはたしかに渡さなければならぬ金です。どんなにからかわれてもこの金をやって追いだす以外に手がなかった」
「そうですか。それではもう一度、あなたの支社へ参上してあの小僧に一言きいてみることに致しましょう」
「まさか小僧が犯人ではありますまいね」
「むろんそうですが、小僧にきいてみることが一ツあるのです」二人は辻の支社
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