う名誉もいらないのだからみんなに秘密を云いたてるがよい。ビタ一文もだしませんとね。すると窓の外の男がいまに後悔しますよと云って立ち去ったそうです」
「そんなことを母が云ったんですか」
「いいえ、偶然きいた人がいるのです」
「そうでしょうな。人が邸内で変死した当日にそんなことがあったと自分で云う人間がいたらおかしいです。またそんなことのあった直後に人を殺すのもおかしいでしょう。ましてゆすられてるのを人にきかれているのにね」
「探偵小説の常識というわけですか」
「まアそうです。母も探偵小説はかなり読んでる方ですよ」
「あなたはへんな男が門を通るのを見かけなかったのですか」
「ぼくは九時ごろからパチンコやって、その時刻ごろにはウドン屋でウドンを食べていましたね。この小僧君が小田原の夜学から戻った十一時ごろ偶然道で一しょになって帰ってきたのです。あなたはぼくがそのゆすりだと仰有りたいのかも知れないが、あの母から一千万円もゆすれる腕があれば高利貸しで失敗なぞするはずありませんよ」
「すると母堂からゆするには高利貸し以上の腕が必要だと仰有るわけですね」
「まアそうです。どんな秘密か知りませんが、そ
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