ってもらうために依頼した百万円だということが分った。オツネの言葉によっても奥さんがゆすりにお金をやった様子はなく、そのアベコベに拒絶したのだから、おそらくそういう性質の金なのだろう。
あとの家族は息子の浩之介だが、彼は門に接続した門番小屋のようなところを事務所兼用にして寝泊りしているのである。彼の営業は高利貸しであった。熱海の大火の折に母からもらっていた山林を売って高利貸しをはじめ、その当時はかなりの好調であったらしいが、今では成績不振らしくビッコひきひき駈けずり廻っているだけで落ち目になると焦りがでて借り手にしてやられるようなことになりがちでいけなくなる一方であるらしい。使用人も居つかなくなり、中学をでて夜学へ通っている小僧が一人いるだけだった。事務所を訪ねてみると、帳簿のほかには探偵小説ばかりが並んでいる。ビッコのせいかブルジョアの息子のようなオットリしたところもない。
「ずいぶん探偵小説をお持ちですね」
「愛読書です」
「昨夜の十時半ごろですが、ある男が母堂を窓の外からゆすっていたというのですよ。母堂が答えて云われるにはもう一千万円もゆすったあげくまだゆするとはあつかましい。も
前へ
次へ
全37ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング