ですよ。たいがい今井という方と一しょに見えるものですから昼のうちにお掃除して――拭き掃除は庭番の爺さんですが、お二人ぶんの寝床の用意しておいたのですが、夜八時ごろお着きになったのは大川さんお一人でした。その後どなたもお見えにはなりません」
 三人の女中の答えは同じであった。オツネが立ち去るまで起きていたのは若い女中一人で、奥さんの部屋と女中部屋は大そう距離があるから何の物音もきこえなかったと云う。
「隣室との間のドアの鍵はふだんかけておくのですか」
「いいえ、私たち洋館のドアの鍵はかけない習慣でした」
 これは女中たちが断言したので他殺の見透しがでてきたのだ。
 そこで奥方に対面をねがった。案外にも面倒なく対面してくれたが、ゆすりのことをきくと激怒してしまった。
「私は誰にゆすられた覚えもありません。ゆうべ人にゆすられたなんて、そんなことはありません。その時刻には誰に会った覚えもありません。ましてそんなことを云った覚えは断じてないのです。おひきとり下さい」
 プイと立って出てしまった。大川のカバンの中の百万円については聞くヒマがなかったので慌てて警官のところへ行って問うてみると、株を買
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