怠けても情け容赦なくピシピシ打つ。山へ行けば背へつめるだけの木をつませて、それで疲れてちょっと立止っただけでも大きな丸太で力一ぱいブンなぐる。ゆっくり草もたべさせず、縄をつかんで鼻をぐいぐいねじりまわして引廻すものだから、辛いこと悲しいこと、それでも五年間は辛抱した。そして、とうとう、たまらなくなってしまった。
 その晩から、和尚は毎晩のように、夢の中で必ず牛に蹴とばされる。どうやらスヤスヤ寝ついたと思うと、どこからともなく牛がニューとでてくるのだが、ニューとでてくる、アッと思うともうダメなので、逃げるに逃げられず追いつめられて、そのときキンタマをいやというほど蹴とばされるのである。その痛いこと、全身ただ脂の汗、天地くらむ、ムムム……蹴られぬさきに蹴られる場所も痛さも分るその瞬間の絶望がなんともつらい。
 これが毎晩々々のことだ。和尚もいまいましくて仕方がない。夢のことだから別にキンタマが腫《は》れあがりもしないけれども、憎らしいことだから、ある日牛を見に野良へでると、牛は寺男にひき廻されておとなしく働いており、和尚を認めると、急にしゃくりあげてポロポロと泣きだした。それが如何にも悲し
前へ 次へ
全23ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング