につけられる方がよろしいかの。八年ぐらいは夢のうちにすぎてしまう。経文にあることだから、牛になって八年間は働いてもらわねばならぬ」
「お前さん経文にあることだから仕方がないよ。元々お前さんがだらしがなくて返せなかったのだから、牛に生れ変って返さなければいけないよ」
「そうか。なんという情ないことだろう。こんなことになるぐらいなら、もっと早く働いて返せばよかった」
 男はハラハラと涙を流して悲しんだが、仕方がない。その晩、息をひきとった。
 翌朝になって小坊主が門前を掃《は》きにくると牛が一匹しょんぼりしている。別に縄につながれてもいないのに、お寺の門前にしょんぼりして動かないから和尚に告げた。ああ、そうか、よしよし、それではゆうべ死んだものとみえる。それはウチの牛だから今日から野良に使うがよい。オヤ、そうですか。和尚さまが買っておいでになりましたのですか。マア、そうじゃ。どれ、ひとつ、見てやろう、と門前へ出てみると、大変大きなおとなしそうな赤牛だから、うむ、これなら申分なかろう、野良へつれてゆきなさい、と寺男をよんで引渡した。
 ところが、この寺男がなんとも牛使いの荒っぽい男で、すこし
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