が好きだ。そして、あんまり働くことが好きでない。そのうちに、よその後家で桜大娘という女の子と懇《ねんごろ》になり、相思相愛で、婚礼をあげようということになったが、何がさて麿は怠け者で余分のたくわえがないから酒が買えない。せっかくの婚礼だからせめて酒でも村の連中にふるまいたいがあいにくで、と女にそれとなくもちかけたのは、女は後家でいくらか握っているだろうという考えからだが、それは困ったねえ、でも、いいことがあるよ、隣の三上村の薬王寺では飲みきれないほど酒があるということだから借りておいでな。なに、働いて、あとで返せばいいのだから。なるほど、お寺なら慈悲《じひ》があるから頼めば貸してくれるだろう、と早速でかけてかけあってみると、よかろう、その代り利息は倍にして返すのだよ、と二斗の酒をかしてくれた。
とどこおりなく婚礼がすんだが、麿の働きでは二斗の酒が返せない。お寺から催促のたびになんとかごまかして年月を経ているうちに病気になって寝こんでしまった。このへんで医者といえば薬王寺の坊主の薬のやっかいにならねばならぬから、女房がでかけて行って頼みこんで坊さんに往診して貰う。坊さんが来てみると、ひ
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