ついでにとって損などとは、と言うと、殿様が叱りつけて、馬鹿を言うものではないぞ、宝の山へ這入って空しく引上げる者があることか受領(国司)は至る所に土をつかめと言うではないか、と言ったそうだ。
この話は昔から国司や地頭の貪慾を笑う材料に使われておって、今昔物語にも、このあと尚数行あり、郎党がこれに答えて、いかにも御尤も、我々|下素下郎《げすげろう》と違ってさすが国を司るほどの御方は命の大事の時にも慌《あわ》てず騒がず、こうして物をつかんでいらっしゃる、と言っておだてながら皮肉る言葉がつけたしてあるのだ。
地頭は到るところの土をつかめ、というのは愛嬌のある表現だが、この国司も愛嬌がある。今昔物語の作者の批判はつまり農民の側からの批判であり諷刺《ふうし》であろうが、農民自身が自分の姿にこれだけの風刺と愛嬌を添え得ていないのが残念だ。地頭は到るところの土をつかめ、という精神でしぼりとられては農民も笑ってすますわけに行かないが、地頭の方がこうなら、それに対する農民ももとよりそれに対するだけの土をつかむことを忘れてはいないので、当然の供出に対する不平だの隠匿米だのということはあんまり昔の本に書
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