は早めに店へ現れる常連が自然に気附くことであった。
「ミヤ公に情夫がいるね」
 と主人夫婦にきいても、
「知るもんですか、あの子のことなんか」
 という返事で、ミヤ子の私行についてのみならず、その相手のお客全部についても敵意をいだいているような様子であった。
 この夫婦はみだりに敵に顔を見せてムダな話の一ツもしなければならないハメになることを極度にさけて、もっぱら裏面に於てミヤ子をつついて、冷酷ムザンに敵から金をまきあげることだけ考えているらしかった。
 グズ弁だけがこの夫婦からいくらか人間扱いをうけていた。
 それはグズ弁が彼の休日に(それは日曜日ではない)昼からこの店へ遊びにきて、それがおおむねミヤ子の外出中に当っており、自然に主人夫婦と話をかわすようなことが重ったからでもあるし、まアなんとなく主人夫婦に虫が好かれたと云った方がよいのかも知れぬ。
 もっとも決して親友あつかいを受けはしなかったし、信用を博したわけでもない。仇敵や泥棒、人殺しよりは一ケタぐらい上の方の親しみだけは見せてもらえたという程度であった。
 その結果として、グズ弁には、他の常連よりも深い真相がわかってきた。

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