素性をみんなさらけて見せることが適当でないとは知っていたが、ミヤ子と結婚したい一念で実は熱心に真実を打ち開けた。なぜなら女というものは泥棒だか人殺しだか分らぬような男とよりは、人に素性の語り明かせる男と結婚したがるのが当然だと考えたせいだ。
 だが、男の素性など問題にする必要のない女がいるものだ。そしてミヤ子がそういう女であるということが、やがてグズ弁にも分ってきた。ミヤ子がグズ弁に身体を許したのは結婚のためではなくて、金のためだ。ミヤ子は金のない男を相手にしなかった。
 何人かの情夫を目の前において、その一夜の恋人の役を当日の所持金の額で定めるのは日常のことであった。むろん、あからさまに所持金くらべをやるわけではないが、それとなくフトコロを当った上で、
「あなたは今晩帰ってね」
 という風にささやく。結局はあからさまに所持金くらべをしたことと同じであるが、情夫たちはそれに従わざるを得ないような習慣が、彼女の手腕によって、自然生れてしまうのである。甚だしい時には、古顔がみんな追ッ払われて、その晩はじめての新顔が残されることもある。この新顔が自分だけ色男だと思い上ることのできるのは、その
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