見まわし、屋根裏を降りて、スパナーをフトコロに忍ばせ、足音を殺して、外へでた。
それはスパナーをひそかに処分するためだった。ついに彼はスパナーを川の中へ投じることに成功した。しかし、そこで精も根もつきはててしまった。再び屋根裏へ戻って、素知らぬ顔でねているような芸当はとてもできなくなり、足にまかせて、さまよいはじめてしまったのである。
二日目に家に帰った。張りこんでいた警官に捕えられた。
いかに真実を言い張っても通らなかった。まさに彼の言い張ることは何よりもウソッパチに見えた。
彼が殺して逃げたという解釈は彼の言訳の何百倍もすべてにピッタリするのであった。のみならず、彼が捨てたスパナーは自供の場所から現れた。それは当り前の話だけれどもこれもまた、彼が殺さなかった証拠になるよりも、殺した証拠となる率が何百倍も高かったのである。
こんな場合に、彼が犯人と決定しても、誤審をとがめるわけにいかなかったであろう。たとえば現場から血にまみれたグズ弁以外の指紋でも現れてくれゝば、彼の犯行を積極的に否定する有力な根拠となりうるが、そういうものも現れなかった。
それどころか、現場の足跡は、グ
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