るので、下へ降りて水をのむことにした。屋根裏からの上下は普通のハシゴを用いているので用心しないと危い。
 一段ずつ用心して降りきると、そこがちょうど台所で、一方は障子を距てて夫婦の部屋だ。真冬のことだし、真夏ですらも我慢して障子をしめておくような夫婦であった。その障子があいたままだ。
 変だナ、とグズ弁は思った。なんとなく、すべてに様子が変だ。怪しいぞ……グズ弁はかねての稽古で、ハッと身の備えをたてながら、スパナーが手にないのは勝手のわるいものだ、身構えにキマリがつかなくてグアイがわるいなとひどく気にしたのである。
 すると、実に妙であった。すぐ足もとにたしかにスパナーがころがっているのだ。
 むろんスパナーというものは、誰のでも見た目には同じようで、これがオレのだという特徴が一目で分るというものではない。グズ弁はあまりのフシギさに驚いて、急いでスパナーを拾いあげた。
 手にベットリ何かついたものがある。油かな、と思った。よく見ると血だ。スパナーは血まみれだった。
 真ッ暗な障子の彼方をすかしてみると、様子が変だった。一足二足ちかづいて、中をみると、乱雑そのものだ。思いきって中へはいっ
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