になつかしく、悲しく、やるせなく、きこえた。だが、中井という存在が分ってみれば、およそこれは人を食った文句ではないか。
 ミヤ子は結婚ができない理由として、右平が二人を殺すであろうということと、そうでなくとも右平はグズ弁を消すために狙っているということを強調するのであった。そして溜息をもらして、もしも右平さえ居なければあんたと一しょになれるのに、といかにも切なく云うのであったが、それが彼女のいつものキマリ文句であるところを見れば、恐らく右平が結婚の申込みをするたびに、彼にも同じキマリ文句で返事をしているに相違ない。
 さすれば結婚の邪魔者と見てグズ弁を消すために右平がつけ狙っているというのは、右平の意志となる以前に、ミヤ子の意志からでたものでなければならない。
「ミヤ子にとっては、実はオレも右平も邪魔者なのだ。そして二人の邪魔者がたがいに殺し合って一方が殺され一方が罪人となって消え去ることを願っているのだろう。なぜなら、中井はもうじき学校を卒業する。他の二人の男が入要だった時期はもう過ぎ去ろうとしているのだ」
 これで全てが氷解したとグズ弁は思った。そして、その時まではそれほど切実には
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