ズ弁は先から考えていた。さもなければ、解釈がつかない。全ての品物はどこへ消えてしまうのだろう。彼女の貯金通帳を握っている陰の誰かが存在するはずだと考えたのである。
 かねてこういう疑いをいだいていたから、グズ弁はミヤ子の昼の外出先を突きとめるために異様な執念をもって行動した。そして、それが中井のアパートであることを突きとめると、彼こそミヤ子のホンモノの情夫であるということを一気に理解したのであった。
 すると彼は怖しいことに気がついた。

          ★

 ミヤ子はグズ弁が結婚を懇願するたびに、
「そうねえ。あんたは頼りになる人だし、あんたと結婚したいと思うけど、右平さんが同じように熱心でしょう。あんたと一しょになれば、たぶん私たち二人とも右平さんに殺されちゃうわよ。今だって、あんたが邪魔だと思うから、あんたを殺して私を独占しようと考えているらしいもの」
 彼女はこう云う。そして、つけ加える。
「あの右平さんさえいなければ、あんたと一しょになれるのにねえ」
 そして、アアア、と溜息をもらして見せたりするのであった。
 中井の存在が分らぬうちは、この言葉もグズ弁の耳には、まこと
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