あることを物語っていると見たからだ。
 グズ弁はかねてミヤ子の金の使途について疑念をいだいていた。ふじの家の主人夫婦の話によると、
「ミヤ子は食費もいらない、税金も必要がない、そのくせ毎晩のように身体を売っているのだから、どれぐらいお金持だか知れませんよ」
 と云うのであった。着物だのハンドバッグなぞだって、たいがい男が買ってやったものだ。それは主として、右平であったが、グズ弁も負けない気持で、月に一度や二度は着る物とか持ち物なぞ買ってやった。しかし、とても泥棒のように金廻りのよい右平のようにはいかなかった。そして右平とグズ弁の買って与える物だけでミヤ子の衣裳は事足りており、事実ミヤ子は自分の金で何かを買った形跡を殆ど認めることができなかった。
 しかもミヤ子はタンスも持たないのだ。そして男たちの買って与えた着物も季節が変るといつの間にか見えなくなりミヤ子の屋根裏の寝室には万年床のほかには何物も見られなかった。
 ミヤ子はよく寝る女だった。正体もなく、よく眠った。それはその部屋に盗まれて困るものが何一ツないことの証拠でもあろう。
「彼女の本当の部屋がどこかに在るんじゃないかな」
 とグ
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