は一見カメレオンの変色本能のように素朴なものに見えるが、人間の場合に於ては実は非常に高級な才能なのかも知れないのである。
 彼はミヤ子に真剣に惚れて、本当に結婚したいと熱望していたので、彼のグズのベールの下の才能は誰にも秘密にめざましく活動しはじめていた。
 そしてミヤ子のホンモノの情夫が誰であるかということすらも、彼がまッさきに突きとめていたのである。

          ★

 半年ぐらい前まで、この店へ時々オデンを食べに来ていたアルバイトの学生があった。酒をのまずにオデンと飯だけしか食べなかったので、長居をすることもなく、常連とのツキアイも起らず、またミヤ子を物にする金すらも持たなかったので誰にも問題にされなかったが、この中井という学生がミヤ子の本当の情夫であった。
 グズ弁は諸般の状況判断や実地偵察等によって、ミヤ子の昼の外出先が中井のアパートであると突きとめたとき、直ちにこれぞ真の大敵であると直覚した。
 なぜなら、中井はアルバイトの学生で、お金を持っている筈がない。そしてミヤ子がお金を持たない男を相手にするということは、それが他の男の場合とは異った、いわば本当の恋愛沙汰で
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