つた。川中島で謙信と競合ふうちはそれでよかつた。両々譲らず鉄砲の威力的な使用法を知らなかつたからである。
鉄砲の威力的な使用法を理解した最初の人は信長であつた。
信長は理知そのものゝ化身であつた。彼は一切の宗教が眼中にない男であつたが、切支丹が同時に新式の文物を輸入するので之を最大限に利用した。ヤソ会師が黒人を献上したことがあつたが、信長は余りの黒さに作つた物だと疑つた。裸にさせ、褌もとらせて、手でなでまはして、やうやく納得、大いに珍重して本能寺の変に至るまでお茶坊主代りに使つたといふが、万事がこのやり方であつた。鉄砲だの、時計だの、新式の航海術、天文、医学、万事に博学多識の南蛮の白坊主共が、神様といふと目の色を変へて霊魂の不滅だの最後の審判などと埒もないことを吹聴する。利巧な奴らであるから然るべき魂胆あつての策略だと信長は見込んでゐたが、ある日、オルガンチノといふバテレンを別室に呼び入れ、侍臣全部遠ざけておいて、さて、お前も商売だから本当のことを打開けては障りがあらうが、然し、今日は家来一同遠ざけたから腹蔵なく語るがよい。天主だのアニマの不滅などといふのは俗人共をたぶらかす方便だ
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