四)[#「(四)」は縦中横] 竹取物語の富士
然しながら、日本の山は恐怖の対象としてのみ在つたわけではないのである。
転じて山霊といふやうな観念を生み、やがて神格を与へられて、崇敬の対象となることも多かつた。
霊峰の王座は遠い昔から東海の孤峰、今も変らぬ富士山であつた。
これは直接山を題材とした物語ではないのだけれども、日本の最も古い物語のひとつ、さうして最も美しい物語のひとつであるところの「竹取物語」が、その清純にして華麗な物語の巻尾を、秀峰富士に登つて結んでゐるのであつた。
即ち、時のみかどが、かぐや姫に懸想したまひ、屡々文をおつかはしになるのだけれども、かぐや姫には悲しい理由があつて、みかどの御意に従ふことができないのだつた。さうして返事も差上ないやうになつたので、みかどの御悲嘆は深まり、又御愛着は増すばかりであつたが、時が来て、かぐや姫は、はじめて、みかどの御意に従ふことのできない理由を打開け申上げたのであつた。
かぐや姫はこの世の人ではなく月の世界の人であつた。犯した罪のために、その消える日まで地上に落されてゐたのであつた。
許されて月の世界に帰ることのでき
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