。
とはいへ、仙台にいくばくも離れてゐない地点であるが、利根川には河童の伝説が多い。「利根川図志」によつても、利根川の物産の条に鮭と並べて河童を説いてゐるのであつた。これによると、この川には「ネネコ」といふ河伯がゐて、年々所が変るといふ話なのだつた。
「甲子夜話《かつしやわ》」に河童が網にかゝつた話がある。河童の形も見、泣声もきいたといふ記録なのだから、河童に関する文献では異彩を放つてゐるのだが、これが矢張り、この土地の出来事なのである。
然し、狸にせよ河童にせよ、滑稽味のある怪物は、時々随筆に現れてくるぐらゐで、小説や劇につくられたものが全くない。芥川龍之介によつて河童が現代に復活したのは異例で、我々の祖先は、妖怪味深く陰性の狐については多くの劇や物語を残してくれたが、狸と河童は文学の対象にならなかつた。狸についてはカチ/\山がひとつの主要な物語にすぎないのだが、こゝでは狸の滑稽な面がいささかも取扱はれてゐない。
のみならず、兎の義侠的な復讐によつて勧善懲悪のモラルは一応具備してゐるのだが、狸が婆を殺し汁にして翁にすゝめるといふ物語の主点だけでは、凡そ日本の物語中最も惨忍極ま
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