んば、ある種の天分があっても、絵の天分と、文学の天分はおのずから違う。絵の天分ある人は、元来色によって物を見ているものだし、文学の天分ある人は、文字の構成によってしか物を把握しないように生れついているもんです。だから、性格が異常だというだけじゃア、文学者の才能があるとは云われないものです」
「然し、先生、今に分ります。分りますとも。先生とヨッちゃんは、たとえば、日月です。男が太陽なら、女はお月様、そういう結び合せの御二方です」
決然とそう云い放ち、やがて、うなだれた。
お風呂の支度ができましたから、という知らせで、私が一風呂あびてくると、寝床の敷いてある部屋へ通された。やがて女が一風呂あびて現われた。その時はもう王子君五郎氏は、この家を立ち去っていたのである。
私は、然し、女が私の横へねても、監視されているようで、ちょッと気持がすくんでいた。
「王子君は、日月と云ったね。日月とは不思議なことを云うものだ。あの人は、そんなことを、時々言うかね」
と、私は女にきいた。その時である。まるで、思いがけなく、ゼンマイのネジが狂ったように女が笑いだした。決して音のきこえる筈のない冷静な懐中
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