ゃ、着物一枚つくるどころか、食べて生きて行くことだって難儀でさアね。ところが、この人が、ふだんから、先生のファンなんです。それでまア、これを機会に、先生にお近づきを願って、文学の方で身を立てたいという考えもあるのですから、御指導を願えたら、と、オセッカイのようですが、本人が黙り屋のヒネクレ屋ときていますから、私から、こうしてお願い申上げる次第なんです」
 彼の言葉には、マゴコロがこもっていた。単に紹介の労をとるというだけの性質のものではなかった。私の頭にひらめいたのは、彼と彼女との交情、二人は相愛の仲ではないかということだった。
 ウカツに返事はできない。文学の指導、といったって、先方の才能の見当がつかなければ、どうなるものでもなし、第一、文学の指導という結論に達するまでの話の筋が、いわば芸術的因果物というような血なまぐさい奇妙なもので、穏やかならぬものである。
 この又あとに結論があって、私の妾にしろとでもいうのであろうか。不美人という程ではなし、スラリとのびた姿態にはちょっと魅力があり、押し黙り、ひねくれて、いかにも陰性な感じであっても、一晩なら遊んでもいいぐらいの助平根性はあった
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