やったのですが、やってみると、その出来栄えがつまらない。そりゃ、そうでしょう。ろくすっぽ稽古もやらずにやった仕事ですから、出来栄えがいゝ筈もないじゃありませんか。あげくに、どうしたと思います。刺青の部分を自分で皮をはいだんです。幸いモモのいくらでもない部分でしたから、ちょいと昏倒したぐらいで、済んだんですがね。まア、そういった人ですから、並の人とは気性も違います。つまり、女ながらも、骨の髄から芸術家の根性で、それについちゃア、鬼のような執念があるわけです」
 女は眉一つ動かさなかった。話は思いがけなく異様なものであるが、話の内容を本質的に納得させるような凄味がない。それは女の人柄のせいだ。本質的に、かゝる鬼の執念を持つ芸術家の凄味というものが感じられない。ジッと押し黙って、眉一つ動かさぬけれども、いかにもそれが薄っぺらで、今にも、チェッと舌打ちでもして、それが本性の全部のように感じられる女である。
「そんなわけで、気性が気性ですから、まア性格も陰性で、それに潔癖なんです。選り好みをしますから、お客もつかず、そうかと云って、パンパンをやるような人柄じゃアない。パンパン時代に、こんな気性じ
前へ 次へ
全24ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング